マドラスをゆっくり味わってからケララに向かいました。実はもう少し未練がありましたが、ケララでは雨期が始まりかけていることを知り、更に今後二三ヶ月のヘビーレインの季節に入る事を知りましたので、いつまでもマドラスに居られない気がして八日に出発した次第です。
そして今朝トリバンドラムに着き、ラマの友人タムピさんが小さな息子さんにバラの花を持たせて私達を迎えてくれました。
ケララはインド大陸とは大分違った感じです。マドラスのホテルから見下ろしたほこりっぽい裏町の黄色いボソボソズルズル汚いボロをまとった人間は一向に見当たりません。皆、小ざっぱりした衣服で何か仕事に向ってサッサと歩いている姿です。あのなつかしい力車は一台もなく、つまり何かあの力車などと言う屈辱的な存在は許さない社会の様です。
和気アイアイと共に過ごした力車がまかり通ったあのマドラスの市街が哀しくも懐かしまれます。
然しここに来ていよいよ壁画の撮影という大仕事にかかるのですから、そんな感傷も味わってはいられないのですが。
ケララの凡てのヒンドゥ寺院はヒンドゥ教徒でないと内部へ入る事が出来ない事を前々から承知していましたので、ガイドの青年とヒンドウ教のミッションに行き、その許可証を得ました。
その為にも吾々はヒンドゥ教徒としての身なりを整えました。女はサリーを、男は上半身裸で下はドゥティをまといます。革製品は一切身につけません。
今日の夕方五時、吾々はヒンドゥ寺院でプレイの時間に証明書をもらってお祈りに出ます。これからはずっとこの証明さえあれば全インドのヒンドゥ寺院に参堂することが出来る様です。
《中略》
カタカリダンスが到着の日の夕方にあって早速に一見しました。このパントマイムはなかなか味わいがあり、日本の浄瑠璃に当たる様な唄い手が語り、扮装のものものしくメイキャップ豊かな、パントマイムでラマクリシュナやラダが出てくる。
ケララは一見に値します。トリバンドラムはケララの首都で大へん美しい街です。何か独特の文化を感じます。自然はヤシが茂りミクロネシアの様です。
FUKU AKINO '74.7.9消印